Prune.

好きなことを好きなだけ。

she said, she was, I am.

①She said she thinks I can be a better girl.

「とりあえず、抱えていた色々なことが落ち着いたみたいで良かったね」と僕は言った。彼女は「ありがとう」と一言つぶやくと、しばらく黙った。

僕は自分の手元を数秒眺めたあと、店内をなんとなく見回した。それでも彼女は口を開かなかったが、ふいに「私はもっと良い女の子になれると思う」と言った。

彼女は僕から見て、少なくとも悪い女性ではなかったし、そもそも悪い人間ではなかった。しかし、彼女自身は今回の一連の厄介事のせいで、ひどく自信を失っていた。

「良い子になんてならなくて良いよ。というか、そんな必要ないじゃん。」と僕が言うと、彼女は目つきを変えて、怒り出した。

「あなたは何にも分かっていない。私が抱えていたことも、私が思っていたことも。何一つ分かっていない馬鹿なの?どうして、私がもっと良い女の子になれると思う、なんて言葉を口にしたか、分からないんだね。」

僕には分からなかった。なぜなら、彼女が言うように僕は馬鹿で、ベターになり損なった男だからだ。彼女の曖昧さは、より複雑なコンテンツを内包していたのだ。

いろんなものが見つかってよかった

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②She said that the girl was actually hated by everyone.

「あなたは彼女のこと、何にも悪い人だとか、癇癪持ちだとか思っていないみたいだけど、実際のところ、彼女はみんなから嫌われているの。」とその人は言った。

僕にはその人の言うことがよく分からなかった。彼女はたしかに正直な人でもなければ、素直なタイプでもなかった。少し理屈っぽかったし。

しかし、僕は彼女が悪い人だとか、そういうふうに思ったことは一度たりともなかった。あるいは、僕が世間知らずや、お人好しなのかもしれない。

彼女は自身の指先のジェルネイルをちらりと見たあと、僕の指先を同じように一瞥した。

「男の子から見たら、彼女は良い子かもしれない。少しだらしないところとか、なんというか独特の空気感があるところとかね。でもね、同性から見たら、それはテリトリーの外側に外れた人っていうか、とにかく仲間意識を感じられないの。だから、彼女はあんまり周りから好かれていないし、友達もあんまりいない。」

「まあたしかに、そういうところはあるかもしれない。」と僕はつぶやいた。

人というのは、私はこういう者ですと表明したところで、それを左から見るか、右から見るか、斜めから見るかで、全然見え方が変わってしまう。ダイヤモンドのようにどこから見ても輝いているなんてことはない。だから僕から見える彼女は、他の人から見る彼女とも違って見えるはずだ。

「まあ、あんまり深く関わらないほうが良いよ。友達だからそう言っておくだけなんだけど。」

君と僕と彼女のこと

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③After all, I had no idea what she was thinking.

結局のところ、他人のことなんて、どこまで考えたって分からない。僕は「分かりあえないという理解不能性のみ、我々が唯一分かりあえること」という考え方にすごく納得がいく。しかし、だから僕は誰かのことを考える必要はないとか、自分のことだけ考えていれば良いということにもならない気がする。

文字通り、僕はI have no ideaだし、この先もI had no ideaだろう。彼女自身が複雑なコンテンツを内的に抱えている可能性についてもなんとなくイメージできる(つもりでいる)し、そういった彼女を批判する、嫌いな人がいるのもなんとなくわかる。

僕らはときに接近し、ときに分かりあった、お互いが理解できたと錯覚する。しかし、互いを包むベールのようなものは剥がせない。時間をかければ解きほぐせるとか、長い間友達でいれば、長い間恋人でいれば、結婚すれば、なんていう「○○すれば」は全部嘘だろう。

しかし、僕らは事実が知りたいわけじゃない。そういう優しい嘘をつきたくなる動物だ。だから、時間が経てば、きっと彼女も僕も、もっとベターな人になれるかもしれない。そのとき、それはベターな男の子や女の子ではなく、ベターな人間でしかありえない。というか、そうあるべきだ。多分。

PINK BLOOD

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