Prune.

好きなことを好きなだけ。

the sea (I can hear her breathing)

ぐしゃぐしゃになったレシート。消えかかった日付の刻印。珍しい名字の担当者。

そこは海が近くて、水の透き通る音がした。彼女は彼女にしては珍しいイエローのワンピースを着ていて、テラス席に腰を下ろすと、すぐにその海の水平線の彼方を見つめた。

僕が好きなアンチョビが乗った少し大ぶりなピザと、トロピカルフルーツを使ったモクテルが木製のテーブルに並ぶ。僕らはそのピザを分け合いながら、談笑をし、そしてまた海を眺めた。

 

異国の地に住む男の子の名前。私がきっと将来一生会うことがない人。でもどこか親近感がある。

私はこの海を眺めてすぐに、私が幼い頃生まれ育った街の海を思い出した。

そこでも海沿いには何軒かの小綺麗なレストランがあった。あの街の海から私はよく遠くの世界に思いを馳せていた。どこかの国の知らない男の子と、私はきっとどこで知り合って、仲良くなって、そして結婚して。そんな夢をよく見ていた。

太陽の光が傾いてくると眩しくて、私は日焼けしてしまわないかなんて、よく気にしていたな。遠いの日の記憶。でも、どこか昨日のことのようにも思えてしまう。

 

現実のなかを泳ぐ金魚。夢のなかではしゃぐ2人。犬を連れて砂浜を歩くカップル。

リアリティとはなんだろう。僕が思い描いていた、彼女が思い描いていたリアリティとはなんだったのだろう。光が過去からの連続性のなかで現れて、進むべき道を照らしている。まるで高速道路のジャンクションのように。

僕は間違ってなんかいないと思う。ただ、時々いろんなことがとっても不安になってしまうだけだ。日常のどうでもいい些細なことが、実はこのリアリティと、この先に直結していることを僕は知っている。

そうなのだ。「僕は知っている」

だけど「僕は知らないフリをしたりもする」のだ。

 

私の夢。父と母が望む夢。彼が望む夢。街が照らすもの。なんでもないものにスポットライトが当たる。

私は夢ばかり見ている子どもだった。周りの男の子ではなく、周りの女友達でもなく、いつも本ばかり読んで、そしてたまにこんな海辺に一人で来て。私は何を「望んでいた」のだろう。そして、私は何を周りに、世界に「望まれていた」のだろう。それは昔と今で変わっているのだろうか。変わってしまったのだろうか。

そろそろ折り合いをつけないといけない。私と、それ以外の他者(the others)との折り合いだ。

 

帰り際、海沿いを車で走り抜ける。どこまでも広い海には終わりがないように見える。

でもそこにも終わりがない、なんてことはないんだ。始まりがあるのならば、終わりだってある。

地元放送局のラジオを選んでみると、聴いたことがないボサノヴァが流れてきた。

長旅に少し疲れたのか助手席の彼女は眠そうな顔をしていた。音量を少し下げ、僕は次の目的地へと急いだ。

Psychedelic Afternoon

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