Prune.

好きなことを好きなだけ。

【超短編エッセイ】While drinking, she asked "how has your day been?"

「ああ、そんなこと言ってたよね。」と彼女は僕に言う。

「そんなに考えてたなんて思ってなかった。だって君のいうことは真剣そうじゃなかったもん。そんなに真面目に悩んでたとは思わなかったから。」彼女はあっけらかんとそう言う。

そういう図太さ、臆せず言葉を発するところが僕は好きだった。僕は一言発するときでも、いちいち余計なことを考えて、こうでもない、ああでもないと考えているうちにタイミングを逃してしまうような人だったから。

マルジェラの財布からクレジットカードを取り出すと、僕はそれでカードを切った。少し気難しそうなオーナーがカードを僕に手渡すと「またお待ちしています。」と乾いた声を発し、ドアを開けた。

外に出ると、冷たい風がたしかに吹いていた。それは東京の冬における典型的な風だった。

「結局、大事なことってそんなに多くないと思うの。自分がなにをしたいのか、それが一番大事っていう人もいるでしょ。私も昔はそう思ってた。でもさ、なにがしたいのかなんてあんまり分からないじゃん。立派な人なら分かるかもしれないけど、少なくとも私たちはそういう類の人じゃないから。だからさ、今やりたいこと、楽しいと思うことを、その時間に思いっきり楽しむの。そのあとどうなるかとか、関係ないの。」

彼女はこんなふうに、突然真面目というか、深い思慮に基づく意見を口にしたりする。そういうところも好きだった。

「たしかにそうかもね。その先とか、明日とか、月曜日からの仕事とかそんなもの存在するかも分からない。」

「そう、存在するかすら分からない。突然今ここで全部が終わったら悲しい?それとも楽しかったなって思う?」

「今なら楽しかったなと思うかな。知らんけど。」と僕は少し恥ずかしくなりながら本当のことを言った。

「出た、関西の人がよく言うやつ。知らんけどってどういう意味?」

「知らんけどは知らんけどだよ。あんまり意味はない。」

「そうなの。」

そのあとしばらく意味のない沈黙が駅まで続いた。

酔いが回った僕には、そのときこの街の灯りが総体としてなにかのインスタレーションであるかのように見えた。酔いが回った世界でしか、本当のことは言えないし、本当のものも見えない。そもそも本当ってなに?って聞かれたら答えに困るけれど。

「まあね、私は自由気ままに何も考えず生きてるように見えるかもしれないけどさ、それなりに考えてるの。」

彼女はひとりでにそう呟いた。それはほとんど伝達を目的とした言葉ではなかった。自分のなかの感情の吐露、そういった類のものであった。

ある冬の平凡な一日はこんなふうに終わった。