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都市を考える: 完成しない街「東京」

今日は少し都市の話をしてみたい。僕は「都市論」とか「都市開発」と呼ばれるジャンルがわりと好きなのだが、今回は日本の都市を語るうえで欠かせない存在「東京」について書いてみたい。

既に、完成しない街「東京」というタイトルからお気づきの方もいると思うが、僕には「東京」とは未来永劫に完成しない街に思えてならない。そもそも都市自体が完成という形態を担保し得ない存在なのかもしれないが、東京はとりわけその傾向が強い都市だと思う。それは歴史的に見ても明らかだ。

例えば、東京はここ100年ほどの間だけでも「関東大震災」による壊滅的な被害、そして太平洋戦争下では「東京大空襲」を経験している。既存の建築物がことごとく破壊される度に東京はその様相を変え、復興を遂げてきた。

一方、同じ日本の都市でも京都などはどうだろうか。未だに平安時代の碁盤の目(条坊制)の区画が十分に残っているのが確認できる。Google Mapで京都駅周辺などを見てもらいたい。一目瞭然だ。

京都が古くからの区画を今日においても維持し、古来の寺社仏閣を保存しているのに対し、東京は(もちろん歴史的に保存されているものも沢山あるが)新しいものを積極的に取り入れ、新陳代謝を繰り返してきた街に思える。

最近発売された都市論関連の書籍に「東京β」というものがあるが、この本のタイトルには永遠に完成しないという意味を内包するβ(ベータ)という単語が用いられている。

東京β: 更新され続ける都市の物語 (単行本)

東京β: 更新され続ける都市の物語 (単行本)

 

ところで、先日東京オリンピックによる利用者増加を見込み、JR原宿駅の駅舎が新しくなることが発表された。

http://www.yomiuri.co.jp/national/20160608-OYT1T50206.html

(JR原宿駅、新駅舎に…現駅舎保存は今後検討 / 読売新聞)

駅舎は近代的なデザインに改められるようだが、現在の原宿駅の駅舎は驚くことなかれ、木造である。この木造の駅舎を取り壊すか、保存するかどうかはまだ未定。この判断に対して、Twitterでは日本の文化的レベルの低さが現れていると批判された方もいたが、ここにも完成しない街「東京」としての側面が現れているといえる。

つまり、新しい駅舎を作るにあたって現在の木造駅舎はともすれば取り壊されてしまうかもしれないのだ。世界の多くの都市であれば、これを保存するのが普通と考えるだろう。しかし完成しない街「東京」は、これを取り壊し得る街だ。新陳代謝の大義のもと、この駅は現在の姿を完全に失うかもしれない。しかし、完成しない街は同時に変化を最も欲している街でもある。古いものが新しさを追求する上で障害となり得るのならば、それを排除する可能性もあり得るのが東京であり、完成しない街の姿なのではないか。

 

もう一つ例をあげれば、東京タワーから東京スカイツリーへの機能移転のことが思い出される。都内の建築物の高層化などが原因で、テレビ電波がうまく届かない難視聴地域が多くなってしまった。その結果、墨田区に新しい電波塔である東京スカイツリーを建設することになったのだ。幸い東京タワーは、機能移転が成されてからも取り壊されず東京をシンボライズする存在として重要な役割を未だ担っているが、これもある種の完成しない街における都市シンボルのシフトだったと捉えられないか。

高くそびえる電波塔はいつの時代もその都市をシンボライズする存在として重要な役割を担っている。僕たちがパリを想像したとき、パリのイメージとしてはじめか2番目あたりに出てくるのはおそらくエッフェル塔だろう。エッフェル塔のような巨大な建築物が戦後復興の最中の東京にできるということがどれほどの意味を持っていたか。

戦後復興の様子を描いた映画「ALWAYS 三丁目の夕日'64」には東京オリンピック開催や東京タワー建設の様子が登場するが、この映画を観れば分かるように都市をシンボライズする意味でも、日本の、あるいは東京の復興を後押しする意味でも東京タワーは極めて重要な意義を担っていたことが分かる。

その東京タワーが2012年に役割を終え、東京スカイツリーにバトンが渡された。僕らはこのシンボルの受け渡しをどう捉えるべきだろうか。完成しない街「東京」はこの時にも東京タワーという極めて重要で、東京らしさを明確に示すベテランのシンボルの役割を、若造の東京タワーの2倍ほどの背丈がある新電波塔、東京スカイツリーにやすやすと譲渡しているのだ。

私感ではあるが、東京スカイツリーは東京タワーほどの大きな都市シンボルとしての意義を未だ背負いきれていないし、まだ東京を代表する存在には成り得ていないと思う。しかし近い将来(東京オリンピック開催が一つのターニングポイントになるかもしれない)確実に東京らしさを背負うのは東京タワーではなく、東京スカイツリーになるはずだ。いや、そう信じたい。だって、完成しない街はいつまでも過去の産物にすがって懐古する態度を取りたがらないからだ。

東京という大都市のいたるところで行われている工事が一向に終わりを見せないのと同じように、完成しない街は前に進み続けなければならない。歩き続けなければならない。これでベストだ、という答えを呈示することは決してなく、どこまでもこれが良いのではないか、いや今はこれがベストだ、と新しさを永遠に追求し続ける営み。完成しない街「東京」が志向するのはまさしくこの態度なのだ。

 

 ▼お薦めの都市関連本

新・都市論TOKYO (集英社新書 426B)

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ヒルズ 挑戦する都市 (朝日新書 200)

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