Prune.

好きなことを好きなだけ。

撒かれたものを拾うということ

撒かれたものを拾うということ。何もかもが見つからないような夜の海の底から、拾い物を探すように彼は目を皿にする。遠くで点滅するいくつもの光。飛行機。ここがどこだって構わない。もはや場所は、場所ではなくなったような気がしてしまう。

 

間違っていることは構わないと思う。人畜無害であるよりはよっぽどましに思えた。窓の外を眺めると、雪がしとしとと夜の底に降り積もっている。遠くから聴こえる音は、どこかの誰かも同じように聴いているのだと思った。彼の脳裏には3年前に別れた彼女の記憶が一瞬よぎる。

 

撒かれたものを拾うということ。撒かれたものには、撒く側と拾う側がいる。撒く側は適当な場所を見つけ出し、それを思いっきり叩きつけるように撒く。ぴしゃんという水しぶきをあげ、撒かれたものは水の中へと沈んでいく。そう、たしかに、沈んでいく。

拾う側は、きっとその数年後ぐらいに撒かれたもののことを思い出し、(よりによって真夜中に)水辺へと近づく。そこには全く人気がない。

 

彼は何もかもを諦めようとする。彼はどんな大学を出たって、どんな仕事に就いたって、結局はロクなことになどならないだろうと考える。彼は彼自身を支える支柱を失ってしまったように思える。

 

2月の水は凍るように冷たい。海の底の生物はどうしているのだろうかと彼は不思議に思う。かつて撒かれたものは、今どうなっているのだろう。
撒かれたものと同じように、彼が無意識にこれまで撒いてきたもの、あるいは、意図せず撒かれてしまったものたちのことをふと想像する。彼がそれらを拾うことは二度とないだろう。

 

僕たちにとって、撒くことはあまりにも簡単で、拾うことはあまりにも難しいのだ。