▼Homecomings「Blue Hour」に最大限のオマージュを。
なんにも得られないこの街で。なんでもあって、なんにもないこの街で。
分からない正体不明の人が、この人は無能だとか、この人はいけ好かないとか、この人はすごく良いとか言っている。誰も本当のこの人のことなんて、分かっていないのに。
そもそもこの人はどこから来たのだろう。そんなこと、どこの誰が知っているのだろう。
もし僕が秘密を君に伝えるのなら、どんな秘密が綺麗だろう。どんな秘密が格好良いのだろう。
夜のこの街、高速道路の灯りがその下を歩く僕たちのもとにも届いていて、そのオレンジの光は何にも増して綺麗だった。道は繋がっていても、遠い僕らの知らない街の知らない人たちのところにも繋がっていても、僕はそこに辿り着けない。君もきっと辿り着けない。
ほのかな初夏の香りが漂う街を想像して、僕は例えばアイスクリームを買ったりして、君は途端に遠い昔のある夏の日のことを思い出したりする。遠い昔がつい昨日のことであったかのような顔をして、君は昔を思い出す。その想い出に現れる、アイスクリームと水色の浴衣。線香花火の火が消えた瞬間の記憶。
なんにも得られないこの街で。僕たちはただなんとなく生きている。
沢山の言葉にまみれて、沢山の顔のない人たちと共に、世界中どこに行っても同じ、夜の街を漂うこの感情を抱いて、僕たちはなんとなく生きている。
ブルーベリーヨーグルト味のアイスクリームと、子どもたちの笑い声と、失われたはずの真夜中のプールの水と、500mlボトルに入ったミネラルウォーターの残りを抱えて、僕たちは薄明かりの中、夜の街を歩く。
なんにも得られないこの街で、何か確かなものを得たいから。僕らはあてもなく歩く。
もう動かなくなってしまったものや、忘れ去られたものたちを捨て去ってしまわないように。それらが再び輝き出すように。